「量子AIによる汎用知能加速」主張の
数理的定式化と検証プロトコル

GhostDrift数理研究所 Mathematical Framework for AGI Acceleration
概要 (Abstract)

本ドキュメントは、「量子コンピューティングとAIの融合により汎用知能(AGI)が加速する」という主張を、工学的・数学的に検証可能(反証可能)な形式へと厳密に定式化するものである。 確率空間と資源モデルを厳密に固定し、「有限閉包の破壊」を観測的識別不能性として定理化する。さらに、主張が意味を持つための必要十分条件(反証可能性と同値な構造条件)を証明し、必要なサンプル数の下限を導出する。

1. 基本空間と確率モデルの固定

1.1 確率空間の定義

確率空間 $(\Omega, \mathcal{F}, P)$ を固定する。すべてのランダムネス(データ生成、アルゴリズムの乱数シード、量子測定)はこの空間上で定義される。

2. 検証プロトコル $\Pi$ と公理系

科学的な検証可能性を保証するため、プロトコル $\Pi$ をオブジェクトとして定義し、その運用に関する公理を設ける。

定義 2.1 [検証プロトコル]

プロトコル $\Pi$ を以下のタプルとして定義する。 $$\Pi := (E_{\text{gen}}, \text{Score}, \tau, \text{Budget}, B, B_{\max})$$

公理 2.1 [外部コミットメント]

プロトコル $\Pi$ のコミットメント $c = \text{Commit}(\Pi)$ は、アルゴリズム実行前に公開掲示板(Public Bulletin Board)に記録され、第三者が検証可能である。これは Certificate Transparency [1] や透明性ログ [2] の設計原理に基づく。

公理 2.2 [条件付き独立性]

評価データ生成 $E_{\text{gen}}$ は、コミットメント $c$ の下で、学習アルゴリズムの出力 $(f, T)$ と条件付き独立である。 $$D_{\text{eval}} \perp (f, T) \mid c$$

公理 2.4 [試行の独立性]

各試行 $j$ における乱数シードは独立にサンプリングされ、成功指標 $X_j$ は i.i.d. なベルヌーイ列を形成する。これにより、古典的な標本不等式 [3] 等の有限サンプル解析が適用可能となる。

3. 成功・加速の定義

「汎用知能の加速」という文脈における評価には、量子・古典双方における計算資源と成功確率の厳密な定義が必要である。本節では、特に量子計算における落とし穴と展望 [7]、およびAIとの融合 [8] を踏まえ、エンドツーエンドの評価指標を固定する。

定義 3.3 [加速の定義]

量子アルゴリズム $A_Q$ が古典 $A_C$ より加速するとは、同一の $\Pi$ の下で次が成立することである: $$\text{Accel}(A_Q, A_C; \Pi) \iff (p_{\text{succ}}(A_Q, \Pi) \ge p_{\text{succ}}(A_C, \Pi)) \land (E[R_Q] < E[R_C])$$

4. 数学的破綻の証明:有限閉包の破壊

適応的なプロトコル変更(後出し評価)が統計的妥当性をいかに破壊するか [4, 5] を、観測的識別不能性として厳密に証明する。

定理 4.1 [事前固定の識別不能性]

Reach仮定の下では、後付け評価プロトコル集合 $\mathfrak{P}_{\mathrm{post}}$ と事前固定集合 $\mathfrak{P}_{\mathrm{pre}}$ を、観測トレースのみから識別する検証器は存在しない。

定理 4.2 [観測同値と推定の不可能性]

観測トレースの分布が一致する場合、統計決定理論 [6] の基本定理に基づき、真の成功確率 $p$ を誤差 $\varepsilon$ 以内で非自明に同定することは不可能である。

5. 必要十分条件と同値定理

定理 5.1 [意味のある主張の同値条件]

主張 $C: p_{\text{succ}} \ge \gamma$ が $\varepsilon$-反証可能であるための必要十分条件は、公理 2.1(事前固定)、公理 2.2(非適応性)、公理 2.4(独立試行)がすべて満たされることである。

Proof.

十分性: 条件下で $X_j$ は i.i.d. となり、Hoeffding (1963) [3] よりサンプル数 $m$ に対して指数関数的な集中が保証される。
必要性: 公理のいずれかが欠ける場合、定理 4.1–4.3 および先行研究 [5] の結果により、適応的分析に伴う False Discovery が防げない。ゆえに検定は存在しない。

6. 結論

量子変分アルゴリズムが特有の「罠」を持つこと [9] や、データの質が QML の性能を左右すること [10] が指摘される現代において、AGI 加速の主張は単なるベンチマーク結果 [12, 13, 14] 以上の構造的な検証可能性を求められる。

主張が科学的命題としての資格を得るためには、プロトコルが外部コミットメントを通じて事前固定され、評価生成が非適応的であり、かつ試行が独立であることが必要十分条件である。

参考文献 / References

[1] B. Laurie, A. Langley, and E. Kasper, Certificate Transparency, RFC 6962, 2013.
[2] A. Tomescu et al., Transparency Logs via Append-Only Authenticated Dictionaries, ACM CCS 2019. DOI: 10.1145/3319535.3354224.
[3] W. Hoeffding, Probability Inequalities for Sums of Bounded Random Variables, Journal of the American Statistical Association, 58(301), 13–30, 1963.
[4] C. Dwork et al., The reusable holdout: Preserving validity in adaptive data analysis, Science, 349(6248), 636–638, 2015.
[5] M. Hardt and J. Ullman, Preventing False Discovery in Interactive Data Analysis is Hard, FOCS, 2014 / arXiv:1408.1655.
[6] L. Le Cam, Asymptotic Methods in Statistical Decision Theory, Springer-Verlag, 1986.
[7] W. Li, Y. Ma, and D.-L. Deng, Pitfalls and prospects of quantum machine learning, Nature Computational Science, 2025.
[8] Y. Alexeev et al., Artificial intelligence for quantum computing, Nature Communications, 16, 10829, 2025.
[9] E. Anschuetz and B. T. Kiani, Quantum variational algorithms are swamped with traps, Nature Communications, 2022.
[10] H.-Y. Huang et al., The power of data in quantum machine learning, Nature Communications, 12, 2631, 2021.
[11] X. Deng et al., Investigating Data Contamination in Modern Benchmarks for Large Language Models, NAACL, 2024.
[12] D. Alvarez-Estevez, Benchmarking quantum machine learning kernel training for classification tasks, arXiv:2408.10274, 2024.
[13] T. Fellner et al., Quantum vs. classical: A comprehensive benchmark study for predicting time series with VQML, arXiv:2504.12416, 2025.
[14] D. Wu et al., Variational benchmarks for quantum many-body problems (V-score), Science, 2024.
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【本監査レポートの性質について】

本稿は、純粋数学的な真理探究ではなく、産業実装における「システムとしての説明責任(Accountability)」と「有限リソース下での検証可能性(Auditability)」を評価基準とした、工学的監査レポートです。数理モデルは、現実の運用リスクを最大限に可視化するために構成されています。